技術開発センター
企画管理部
山田 雅宏
技術開発センター
評価解析研究所
パターニングデザイン解析部
浜舘 優
DNPは、世の中の多種多様な製品・サービスを技術と品質で支える、いわゆる「黒子」の会社だ。そのDNPのモノづくりを、検査や評価・分析という技術で、さらに後ろから支える山田 雅宏と浜舘 優は、自分たちを「黒子の黒子」と呼ぶ。
しかし今、「黒子」も「黒子の黒子」も、その役割は「支える」だけにとどまらない。DNPは培ってきた技術や知見を生かし、自ら新たな価値を生み出す存在へと、その領域を広げている。そして、検査や評価・分析の技術者もまた、モノづくりの高度化が進む中で、直接生活者と向き合う“表舞台”に出てくる機会が増えている。
2人は変化する自らの役割を「深海から海面近くに浮上した魚」と表現する。技術を深める海の底から、多様な人や技術が行き交う海面近くの開かれた世界へ。深化と浮上を行き来するようになった技術者たちに今、どんな変化が起きているのだろうか。
技術開発センター
企画管理部、評価解析研究所パターニングデザイン解析部の2人。
山田 雅宏(やまだ まさひろ)
2004年入社。機械系出身の技術者として、2026年4月まで製品の品質を自動で確認する検査装置の開発や生産現場の改善に取り組んでいた。途中3年間は大学へ出向し、高速ブックスキャナーの共同研究開発にも携わった。現在は企画管理部長として、技術を新たな価値につなげる活動を推進。共創拠点「FIOラボ」の立ち上げや、そこでの人・組織・技術を結び付け社会に新たな価値を生み出す取り組みで、大きな役割を果たしている。
浜舘 優(はまだて すぐる)
2008年入社。化学系出身の技術者として、ナノ*レベルの物質の評価・分析技術をもとに、品質改善や製品開発などさまざまなプロジェクトに携わる。多岐にわたる事業や製品に関わっているため、「何をつくる仕事?」と聞かれるたびに困ることが多い。
*1ナノメートルは、100万分の1ミリメートル。
山田黒子の役割が多いDNPの中でも、私は検査の技術者出身で、浜舘さんは評価・分析の技術者。黒子たちを、さらに後ろから支えてきたよね。
浜舘「どんな仕事?」と聞かれたとき、説明しにくいんですよね。つい、「黒子の黒子です」って。
山田以前の私は、自分の仕事を「ゴミを見つける仕事です」と説明していたよ。
浜舘ずいぶん思い切った説明(笑)。
山田入社から長く担当していたのが、人の目でおこなっていた検査を機械へ置き換える装置の開発。製品に不良がないか、カメラで見て判定して、見つけたら取り除く。その精度を高めたり、処理速度を上げたりしていくんだけど、検査機はどこまで進化しても、製品の不良を見つけ、品質をクリアしなかったモノを捨てるだけなんだよね。
浜舘確かに「ゴミを見つける仕事」ではありますね。
山田でも、だんだんそれが変わってきた。「はじめから不良を減らそうよ。そこから変えないと良くならない」と言ってるうちに、製品開発の段階から巻き込まれちゃって。
浜舘山田さん自ら首を突っ込んでいったんでしょ(笑)。
山田そうとも言われてる(笑)。「よーし、ゴミをもとから減らすぞ」って。
浜舘私たちの評価・分析も、似ています。基本は、できあがったものを評価する仕事。研究や開発の技術者が、「こんなのができたから評価して」、「思ったものができないから、原因を知るために分析して」と送ってくる。
山田困ったときに頼られる。
浜舘送られてきた材料を専門の分析装置にかけると、数値や画像データが出ます。例えば半導体製品用の材料では、ナノレベルのきれいな画像が撮れて、「ほら、見えました」と。分析屋としての仕事は、そこで終えることもできるんですけど、それだけじゃ課題は解決しないんですよね。
山田レントゲン写真をきれいに撮って、「よく見えるでしょう。では治療はご自分でどうぞ」って言ってるようなものだよね。でも浜舘さんは、「ここがこんな病気かもしれない。こうやったら治るかもしれない」まで入っていく。
浜舘相談してきた人は、“見たい”のではなく“治したい”んです。だから私は、呼ばれてなくても工場まで出かけて行き、製造工程を見て、技術者を質問攻めにします。「本当は何が問題なのか」を知りたいから。すると、依頼された分析とは別のところに原因があることもあります。
山田首を突っ込むタイプだなあ。「黒子の黒子」なのに、どんどん出かける(笑)。まあ、DNPはもともと、そうやって現場に行くことを、よしとする風土ではあるよね。
浜舘評価・分析の現場と製造の現場とを行き来しているうちに、そもそも問題が起きない材料を使ったり、もっと品質が良い製品をつくる手順を設計し直したりできないのかな、と仕事が広がっていく。
山田モノづくりに早い段階から関わり始めた。われわれ「黒子の黒子」の“あたりまえ”が変わってきたよね。
浜舘われわれだけが特別ではなくて、モノづくりがどんどん複雑化、高度化する中で、“つくってから検査する・評価する”だけでは、新しい製品を生み出すのが難しくなっているんですよね。評価・分析の観点で初期段階から関わらなければ、開発が進まないこともある。
山田ものづくりの“あたりまえ”が変わった。浜舘さんたちは、材料の仕入れ段階にも関わっていくでしょ? DNPは、さまざまな材料を調達し、加工して製品にするから、新しい製品をつくるには、使う材料から考える必要がある。
浜舘一つの材料を検討するとき、分析して「この材料は使えません」で終わるのではなく、「この条件なら使いこなせる」あるいは「もっとこういう性質を持つ材料を選ぶべきだ」と提案する。私たちの検討結果で開発方針が変わることもあります。
山田ときには、開発を進める判断だけでなく、止める判断に関わることもあるもんね。
浜舘やりがいはあるけど、責任は重大。プレッシャーも感じるようになってきました。
山田「深海」で、一人でコツコツやってた技術者が海面近くに上がって開かれた海に出ると、他の技術者はもちろん、社内外のいろいろな人とディスカッションしたり発信したりする機会も増えてくる。
浜舘山田さんはそういうとき、技術を分かりやすく伝えるのが上手です。私も説明するとき「山田さんなら、どう話すだろう」と考えますよ。
山田「山田にだまされている気がする」「何か高価なものを買わされそう」と言われることもあるけどね(笑)。
浜舘たぶん褒め言葉です(笑)。伝えることは昔から得意だったんですか。
山田転機があったんだよ。私は3年間ほど、大学との共同研究でみっちり研究漬けになった時期があった。そこで開発した高速ブックスキャナーの技術をお客様へ紹介したとき、「読み取り精度がここまで上がったんですよ! すごいでしょう!」と、研究側から話してたんだよね。
浜舘技術者あるある、ですね。成果や数値を認めてもらいたくなる(笑)。
山田でも反応は「はいはい分かった。で、それが何の役に立つの?」。ショックだったなあ。
浜舘あ、そういう事態、私も身に覚えが(笑)。
山田こっちは自慢の料理を出したつもりなのに、お客様に食べてもらえない。そこで思い出したのが、かつて上司に言われた「まず、お客様が何を食べたいのかを知りなさい」という言葉。
浜舘例えば、相手が食べたいのはチキンカレーだとすると?
山田技術者は、そんなことそっちのけで、自分の持ってる道具、つまり技術のすごさを見せたがる。
浜舘最新のフライパンを見せて、性能を自慢(笑)。
山田その性能を知ってほしいもんだから、得意料理のパラパラのチャーハンまでつくってしまう。「どうです、このパラパラ感」(笑)。
浜舘でも相手は「いやチキンカレー食べたいんだけど」と(笑)。
山田見向きもされない(笑)。いくらフライパンがすごくても、チャーハンが旨くても、お客様がほしいものじゃなければ、その価値が伝わらない。
浜舘それで、山田さんの高速ブックスキャナーも、あんなにすごいのに「それが何の役に立つの?」といわれてしまった。
山田「読み取り精度がすごい」だけではなく、それによって、お客様の仕事がどう変わるのか、世の中に何を提供できるのかを伝えるべきだったんだ。そこまで伝えて初めて“価値”を感じてもらえる。
浜舘そんな経験をしたからこそ、技術を伝えるのが上手なんですね。ところで山田さんは、逆の立場で、発注側に立つこともあるでしょう?
山田私たちが検査技術を開発して、そのための装置を外部の機器メーカーさんに発注するときなどにね。以前は、こちらで仕様を事細かに決めて、「この機械をつくってください」と渡していたんだけど、「私たちはこういうことを実現したい」と伝えた上で「よい方法はありますか」と聞くように変えた。発信の仕方を変えたことで、相手が乗り出して聞いてくれるようになった実感があるよ。
浜舘事細かに決めた仕様を渡しても、それ以上のものは出てこないけど、そのやり方なら、自分たちだけでは思いつかなかったアイデアが出てくる可能性がありますよね。
山田相手の力を引き出すというと、おこがましいけど、技術者同士がお互いの力を引き出し合えたら、もっと良いものができるし、お互いに仕事が楽しくなると思う。
浜舘そんな思いが今、「FIOラボ」につながっているんですね。
山田そう、これからは、出会って、共創しなくちゃ。
浜舘「深海」から「海面近く」に上がってきたら、いろいろな生き物との出会いがひろがって刺激的で楽しいですね(笑)。
浜舘私にも転機のようなことがありました。入社8年目にあるテーマのリーダーになったことです。それまでは、いわば“ソロ活動”。一人で現場へ出かけていって、課題を解決して、達成感を得ていました。ところがテーマのリーダーになり、多くのメンバーと仕事をするようになると、自分一人が分かっているだけでは進まなくなりました。
山田それまでの“あたりまえ”が崩されたわけだ。自分だけでやったほうが早い、と思わなかった?
浜舘思いました(笑)。たとえば後輩の技術者が製造現場とメールを何往復もやり取りして、いつまでも悶々としているのを見ると、「その現場に行って・見て・話せば早いのに」と思うんですけど、彼らを深海から急に海面に引き上げれば水圧差で気絶するかもしれないから、ゆっくり徐々に(笑)。
山田急に海面に上がると、まぶしすぎる(笑)。
浜舘ですよね(笑)。いきなり「一人で行ってこい」ではなくて、最初は一緒に現場へ行ったり、人を紹介したりしながら、少しずつ外の人と話す機会をつくっていく。そうやって、自分から人とつながり、自分で課題を解決できるようになってもらうことも、今の私の役割なのかなと思っています。
山田お!? 浜舘さんも、もう立派なリーダーだね。
浜舘私自身、あちこちの現場で技術者と出会って、一緒に課題を解決したことが財産になっています。そういう方とは、その後もやりとりがありますし、何か困ったことがあったら、すぐに聞ける。若手にも、そうしたつながりを自分でつくってもらいたいです。
山田DNPは、事業も技術も分野が幅広いから、いろいろな技術者がいる。あっちの工場でやってるこの方法を、こっちのモノづくりでも応用できるんじゃないか、と思うことも多いよね。われわれは事業分野を横断して見られる立場にもいるからこそ、DNPのいろいろな強みを結んで掛け合わせる。1+1の足し算だけじゃなくて、3にも10にもできる可能性がある。
浜舘それこそが「開かれた海」へ出て異なる技術や考えを持つ人と出会うことの価値ですよね。ただ、相手が社外の方だと、どこまで話してよいかという守秘との境界も難しいです。
山田確かに。でも、自社の技術だけに閉じこもっていたら世界のモノづくりのスピードに追いつけない時代だからね。
浜舘以前は他社=競争相手だと考えがちでした。でも、実は同じ課題で困っていることもある。お互いのできることを持ち寄れば、開発をもっと速く進められます。
山田技術者はこれまで、自分の技術を守り、「自分が勝つ」ことを考えてきたと思うけど、相手の強みと自分の強みを掛け合わせて、「一緒に勝つ」ことが必要になっていると思うなあ。私は、そんなふうに優れた技術を持つ人たちが、社内外の垣根を越えて自然につながり新しい価値を生み出すことを、次の“あたりまえ”にしたい。
浜舘私は、技術者が「深海」と「海面」を自由に行き来でき、仕事だけでなく暮らしも充実させながら、挑戦する意欲を持ち続けられる環境を、“あたりまえ”にしたいですね。
山田自由に活発に動いて、つながる技術者が、これからの「黒子の黒子」なのかもしれないね。いや、それってもはや「黒子の黒子」なの?(笑)。
浜舘新しい呼び方を考えましょうか(笑)。




