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共に未来をつくる
EXPOストーリー

【第7話】万博最大級パビリオンの運営・広報

未来をつくる、DNPの新領域への挑戦

1970年大阪万博でDNPは、印刷会社がパビリオン全体の企画を手掛けるという、当時は前例のなかった領域に挑戦。その時に発揮した企画力が広く認められ、その後は文化施設・商業施設やイベントの空間設計、コンテンツ開発なども広く手掛けるようになりました。大阪・関西万博では今回、パビリオンの運営という新たな領域に挑戦しています。特に「未来の都市」パビリオンは、大阪・関西万博として最大規模であり、博覧会史上でも初となる“博覧会協会と12の企業・団体の共創”によって実現したものです。この施設の運営について、数多くの施設運営の実績がある株式会社コングレとの共同事業体で参画。両社の挑戦について、事業責任者の皆さんに聞きました。

プロフィール

株式会社コングレ
執行役員 小堀 英昭(こぼり ひであき)

未来の都市運営広報事務局統括・管理副責任者。

株式会社コングレ
2025年大阪・関西万博プロジェクト室 柳山 和代(やなぎやま かずよ)

未来の都市運営広報事務局施設管理統括。

大日本印刷株式会社
情報イノベーション事業部 日下部 智(くさかべ とも)

未来の都市運営広報事務局統括・管理責任者 兼 フューチャーライフゾーンDNP統括責任者。

大日本印刷株式会社
情報イノベーション事業部 高見 未来(たかみ みく)

未来の都市運営広報事務局事業統括。

博覧会協会と企業・団体の共創で未来社会を描く「未来の都市」パビリオン

全長約150m、展示面積約3,300㎡という大規模パビリオン。2025年日本国際博覧会協会と、協賛する12の企業・団体が共創し、15のアトラクションを展開。未来社会ショーケース事業※1の中核を担うプロジェクトとして、来館者が未来社会に横たわる課題を解決するための種を学び、「未来は自分たちで変えられる」と感じ、考えていく場となっています。

万博会場を“未来社会のショーケース”に見立て、先進的な技術やシステムを取り入れて未来社会の一端を実現することを目指す事業。

目的を共有する“真のプロ企業”どうしの協業がチームを強くする

――最初に、今回の体制とそれぞれの役割を教えてください。

日下部

我々は、共通展示とバックスペース及びパビリオン全般の統括運営・広報業務を担っています。代表構成企業としてDNPが全体を統括し、コングレ社が施設管理の構成企業としての役割を担っています。この両社に加え、人材募集・広報・PR・警備といった各分野の第一線で活躍する企業とタッグを組み、事業を推進しています。

――万博最大規模であり、これだけ多くの組織が関わっているパビリオンの運営は、DNPとして大きな挑戦だったのではないでしょうか?

日下部

はい。万博全体でも、前例のないような規模と複雑さをともなうものです。しかし、このパビリオンは企業や団体が垣根を超えて来館者とともに未来の都市像を考える場であり、まさに“共創”の象徴です。そのような事業はDNPだけではできないのは明白なので、万博だけでなく、集客や施設の運営管理で多数の実績を有するコングレ社に協力を仰ぎました。

小堀

最初にお話をいただいた時は、「本気?」と思いました。そんなこちらの疑問を知ってか知らずか、事業の本質や社会における意義を日下部さんは飄々と語っていて、「なんだかわからないけどそこまで言うならやってみるか?」と思ったのを覚えています。

柳山

決して容易ではないこの事業に、本気で挑戦しようとしている姿に、コングレがお役に立てることがあれば、是非ともご一緒したいと直感的に思いました。

小堀

DNPの熱い想いに応える形で協働することを決め、どのような役割で関わるべきか、未来の都市の運営とはいかなるものか?と喧々諤々、ともに検討していきました。この事業は、各分野を専門とする企業とタッグを組んでいますが、どの専門領域にも入らない“隙間”が生じることが多々あります。施設全体を管理する中でこうした“隙間”を埋めることがコングレの役割だと考えました。そんなチーム像が見えた時、このチームはうまくいくと思いました。

高見

来館者のことだけでなく、関わるすべてのスタッフのモチベーション管理の大切さをコングレ社の皆さんから学びました。まさにDNPだけでは気づけなかった点だと思います。

日下部

このチームには“御社”も“弊社”もありません。同じチームの仲間です。DNPは、社外のパートナーと協働して「より良い未来をつくること」を目指しています。そのためにはまず、強固なチームをつくることが必要です。今回は、とても良いチームになれたと感じています。

同じ方向に進むために重要なのは「対話」

――博覧会協会及び協賛各社との調整はどのように行ったのでしょうか?

高見

それこそが最も重要な“業務”でした。通常、ひとつのパビリオンを運営するには、方針をもとにマニュアルやガイドラインを定めますが、当パビリオンは協会と各協賛者それぞれに考え方やマニュアルがあるので、それらを調整することに注力しました。

日下部

それぞれの立場や想いを尊重し、丁寧に調整を進める必要がありました。その中で各者の合意を得るためには、拠り所や軸となるパビリオンの“本質”が必要です。各者の考えに耳を傾け、定例会を行い、粘り強く「対話」を重ねました。そうすることで、このパビリオンがもっとも大事にすべきことが明確になったのです。それは、「未来を担う次世代に来館してもらい、“未来は自分たちで変えられる”と感じてもらうこと」です。これはすべての関係者に共通する想いでした。多少考えが違っていても、「多様だけど目指すものはひとつ」との想いから同じ方向を向いて進めるようになりましたね。

柳山

企画提案段階から、大屋根リング外の最西端の未来の都市へ人流を作りたくて、DNPと検討し、さらに未来を担う子供たちでにぎわうパビリオンにするため、学校団体をターゲットとしておりました。
未来の都市は他のパビリオンに比べ収容人数が多く、団体の受け入れに向いている施設です。
そのことは協賛企業の方々も賛同いただき、会期前に学校へ出前授業を各社が積極的に実施され、そこから皆さまと同じ方向を向いて進んでいった気がします。

高見

開幕前のテストラン(試験運用)で学校の先生を招いてパビリオンツアーを行ったことが効果的だったと思います。このツアーではパビリオンの考え方を先生方に理解していただき、団体専用の申し込み方法についても私たちが丁寧に説明しました。実際に「学校団体来館No.1」になりました。

小堀

団体の来館の際は運営のオペレーションを変える必要がありますから、「効率だけを重視する運営」なら、団体の枠はない方がいいのです。それがなくても予約は充分埋まります。ですが、DNPも博覧会協会も協賛各者も、「次世代に体験してもらおう」「手間がかかろうが受け入れよう」という想いでこのパビリオンを設計し、運営している――。この想いは万博の理念に通ずるものであると思います。

日下部

学校団体を受け入れるのは、今回の万博内で最大規模である「未来の都市」パビリオンの使命でもあると考えているので、それが実現できていることはある意味“あたりまえ”であり、嬉しいことでもあります。

“空間をつくる”から“都市全体のマネジメント”へ

――今回の協働で、お互いから学んだことや印象に残っていることを教えてください。

柳山

DNPは、純粋に人を楽しませたいという思いにあふれていて、フットワークも軽く、協賛企業の方々からも頼りにされています。
そして、どんな意見にも耳を傾けて受け止めてくれる柔軟さがあります。この事業は多くの関係者の声を一つにまとめることが重要で、皆さまと粘り強く対話し、導いてくれます。来館者50万人・100万人達成記念イベントにスタッフ全員で祝うことを、一緒に考えていただき、お菓子やシャーベット等を用意したことも印象に残っています。

高見

「100万人をお迎えできたのはスタッフ・アテンダントの方々のおかげですから」とコングレ社と意気投合し、実現できました。皆さんと協働できたことが本当にありがたいし、よかったと思います。

小堀

DNPは、これまで私たちが持っていたイメージを良い意味で裏切ってくれました。「そこまでやるのかDNP!」と思いましたね。

高見

チームの中でDNPが一番のチャレンジャーですから、できることは何でもやります!

日下部

「運営」と言っても、現場では本当にいろいろなことが起きます。よいこともあればお叱りを受けることも――。もし来館者が体調を崩されていれば応急対応も行います。予測不能な事態が次々に起こる中で迅速に対応しなければなりません。「社に持ち帰る」暇はないんです。その点でコングレ社はすぐに答えを出して、必要なものがあればすぐに調達して、揃える。そんな姿を目の当たりにし、メンバーには「“現地現物”“即断即決”のDNPになろう」と声をかけています。

――今回の経験を活かして、今後どんなことに挑戦したいですか?

高見

私の場合は、“自分はここまで”と線を引くのではなくて、“自分には何ができるか”を考えて、これまで通り、挑戦する姿勢・行動を取り続けていくと思います。それが「これまでにない未来」をつくることにつながると思うので。

日下部

DNPとしては、これまで空間をつくったり、展示を企画したりすることはありましたが、施設全体の運営管理は新たな挑戦でした。今回、各分野のプロフェッショナルから学びながら協働するという経験を経て、あらためて、今後のDNPは空間をつくって終わりではなく、空間自体を育てる・運営するところまで関与できる企業でありたいという思いを新たにしています。施設運営や都市全体の運営でも、DNPができることはまだまだたくさんありますので、躊躇することなくチャレンジしていきます。

座談会に寄せて 副館長からDNPへのメッセージ

公益社団法人2025年日本国際博覧会協会
未来の都市パビリオン 副館長 兼 未来の都市 事務局長
兼 企画局 担当部長
高見 明伸(たかみあきのぶ)さま

毎日毎朝、一緒に時間を過ごしていますから、個々の皆さんの人柄が見えてきます。
DNPという組織の一定の文化を持ちつつも、いい意味で個性を生かしておられると思います。また、日々の運営で起こった事柄に対して、誠実に取り組んでいただいていると思います。皆さん、手先が器用で、できることは自分たちでやるという姿勢もいいなと思って、うれしく見ていました。ご存じのように万博のパビリオン運営は、半年に亘って、様々な企業、職種の皆さんが一つの目的、来館されるお客さまの満足に向けて、みんなで協働していく業務です。自らの行動に軸を持ちつつも、柔軟性と誠実性が求められる仕事です。ここでの経験が個人にとっても、DNPという組織にとっても、新たな可能性につながることを確信しています。そして私をはじめ個性的な協会メンバーに対して、嫌な顔も見せず暖かくお付き合い、バックアップしていただいたことに感謝します。いつかどこかでまたご一緒することがあればうれしく思います。