DNP科学分析センターの実験室

イノベーションの裏にデータあり。モノづくりを支える「分析・評価解析」

モノづくりのあらゆる工程で欠かせない分析・評価解析を担う専門集団、株式会社DNP科学分析センター(旧UBE科学分析センター)。2024年4月、それまでの親会社のUBE株式会社と大日本印刷株式会社(DNP)の共同出資で、DNPグループの一員になりました。化学原料の分析にルーツを持つ同社と、材料加工や情報処理、モノづくりがルーツのDNPの融合がもたらす新しい価値とは――。同社代表取締役社長の二井裕之に話を聞きました。

目次

プロフィール:
株式会社DNP科学分析センター
代表取締役社長
二井裕之(にい ひろゆき)

モノづくりの価値創造の根幹を担う「分析・評価解析」

AIやロボットをはじめ、さまざまな先端技術が暮らしに浸透し、あらゆるビジネスプロセスに欠かせないものとなっている現代。その裏側では、半導体製品をさらに高性能にするために三次元構造で高密度化したり、電気自動車の航続距離を延ばすために安全性と軽量化を両立したりといった、さらなる価値創造を見据えた技術革新が求められています。こうした需要を受けて重要度が高まっているのが、さまざまな特性を持つ新材料や多様な部品などを「分析・評価解析」する業務です。

3D-STEM(走査透過電子顕微鏡)を用いてナノメートル粒子の三次元形状を再現した図。肉眼では確認できない対象の構造を解析し、素材の安定性や製品の実用可能性などを確かめる。

Volume size (x, y, z) = (180, 180, 150) nm

ここで言う「分析・評価解析」は、物質の成分や特性を明らかにし、その結果を評価・解釈する一連の作業プロセスのことで、研究・開発・品質管理等に活用します。具体的なシーンとしては、大きく「研究開発」と「事業化」という2つのフェーズに分かれます。
「研究開発」は、新しい製品・サービスを生み出すための素材・材料について、科学的分析を行い、実用化に耐えうるか検証するなど、事業の基礎を固めるフェーズ。「事業化」は、量産に必要な材料・工程・設備などを考慮し、品質の担保やコストの抑制も実現する生産ラインを構築するフェーズです。

製品開発のフローに合わせ、さまざまなシーンで必要となる「分析・評価解析」

DNP科学分析センターの二井裕之は、分析・評価解析事業の意義について次のように語ります。

「製品・サービスを市場に送り出すまでには、各ステップにおける基本的な分析が大切なのはもちろんのこと、その過程で品質の向上、不良品の削減、コストの抑制といったさまざまな課題を解決しなければなりません。それらに対して迅速に改善ポイントを特定し、具体的にどのような方策を取ればよいかをデータで示すのが、私たちの腕の見せどころです」

実際に分析・評価解析を担うプレイヤーとしては、メーカー等の担当部署のほか、大学をはじめとする学術機関、政府・公的機関が運営する研究所、大きなメーカーから独立した専門企業など、さまざまな部門や団体があります。

「私たちのようなメーカー系の専門企業は、独立前に所属していた会社の事業領域に関する深い知識とビジネス的な視点を兼ね備えているのが強みです。多くは鉄鋼系のグループで、ほかに化学系のグループがあり、材料分析・非破壊分析・環境分析などの手法によって細分化しています。中には、水質や土壌などの環境分析のみ行うなど、一つの分野に特化した企業も珍しくありません」(二井)。

二井裕之

それぞれ得意とする分野や目的が異なるため、各社が分析・評価解析を外部に発注する際は、自社のニーズに合ったパートナーを選ぶことになります。その専門性の大切さについて、二井は次のように強調します。

「例えば正確なデータを取るためには、作業に入る前の『前処理』を丁寧に行う必要があります。分析に適した試料形態となるように、切断機を用いて個々の素材に応じた最適な断面を作成したり、酸を用いて溶かしたりといった作業をします。この前処理の選択を誤ると分析結果が不正確になってしまうので、各分野に特化した知識や経験が欠かせないのです」

多様な受注で高めた“専門性”と“対応力”でさまざまな課題を解決!

前身のUBE科学分析センターは、1987年、化学原料の製造に強みを持つUBE株式会社(旧社名:宇部興産)を親会社として設立。当初はUBEの一部門だった頃から引き継いだ化学原料の分析・評価解析技術を強みとし、その後独自の進化を遂げていきました。

「私たちは設立以来、社外からの受託を増やすべく積極的に活動し、8割に届くまでになっていました。メーカー系の分析専門企業の多くはグループ内の受注の割合が大きく専門性を発揮していますが、当社は社外の幅広いお客様から寄せられるさまざまな課題を解決してきたことが大きな強みになっていると感じています。

そうした歴史もあり、難しい課題にもチャレンジし続ける探究心の強いメンバーが多く在籍しています。2024年にDNPグループに加わったことで、グループ内の受注の割合が増えてきましたが、今後も社外のお客様からの依頼には広く対応したいと考えています。

現在、当社の具体的な分析部門として、材料の特性に関して表面や界面をナノレベルで観察・解析する『構造解析』や、『何でも溶かせる』という高い前処理技術を誇る『無機組成分析』、医薬品や食品等の人体への影響を微生物や細胞を使った生物学的試験で評価する『安全性評価研究室』など、6つの専門部署が稼働中です。それぞれ、最先端の機器と豊富なノウハウを持つスタッフが力を発揮しています」

6つの専門部署

自身も研究部門出身の二井が、分析・評価解析業務で大切にしていることは−−。

「大手メーカーの多くは、社内に専門の分析チームを抱えています。自社の製品・サービスについて最も詳しく知っているのは彼らのほうなので、大抵の課題は社内で解決できるはず。そのうえでご依頼をいただくということは、何らかの重大かつ緊急の事態が起きているわけで、私たちは一刻も早く解決につながる“気づき”を提供しなければなりません。そのためにも、分析部門のスタッフは常に最先端の知識を収集し、本質的な課題を見極める想像力・創造力を持つことが大切です。また、お客様の入口となる営業部門に、分析実務の経験があるスタッフを配置することで、リードタイムの短縮を図っています。」

DNPとのシナジーから生まれる価値とは

2024年4月、DNPとUBEの共同出資の合弁会社としてDNPグループの一員になったUBE科学分析センターは、1年後の2025年4月にDNP科学分析センターに名称を変えました。主に中長期的な市場拡大が見込まれる「半導体関連」と「環境分野」における分析・評価解析の機能・サービスの強化をめざしています。二井は、DNPとのコラボレーションを通じて、UBEが培った分析・評価解析技術はさらに広く・深く進化し始めていると語ります。

「UBEを母体とする私たちと、もともとのDNPの皆さんとは、月1回のペースで技術交流の場を設けています。私たちは化学原料に強みを持ち、DNPは加工技術に強みがある。技術者同士、意気投合する部分もありながら、それぞれ異なる分野の知識に大いに刺激を受けています」

二井裕之

こうした“化学反応”の中で最も大きなものは、「製品開発のプロセス全体に関するDNPグループの知見が得られること」だと二井は指摘します。

「当社のビジネスモデルは長らく、お客様の製造工程で何らかの課題が発生したときに、その部分の分析だけを担うことが主体でした。言わば、課題が発生して初めて事業に関わらせてもらう立場です。しかし、DNPグループに加わったことで、モノづくりのプロセスの最初から最後まで、トータルで携わる可能性が生まれました。これによりプロダクトに対する深い知識を得られるとともに、課題を未然に防ぐ動きもしやすくなるはず。その先には、社会的価値がより高い大規模サプライチェーンへの参画といった展開も見えてきます」

また、DNPが培ってきた製造プロセスにおけるコスト管理や時間管理のノウハウを分析・評価解析作業に採り入れる意義も大きいと話します。

「これまで私たちは、比較的少人数のチームで分析・評価解析を行ってきましたが、今後大規模なプロジェクトに参加することを見込むと、コスト管理や時間管理といった視点がより重要になるでしょう。その部分でも大いに学びがあります」(二井)。

一方、DNPグループ全体でも良い化学反応が生まれています。例えば、 DNP科学分析センターが強みとする材料の物性の分析・評価解析によって、DNPの製造工程における課題を解決した事例があります。また、DNPの事業セグメントの一つ「ライフ&ヘルスケア部門」で欠かせない「安全性評価」も同社が得意とする分析手法の一つです。今後さらに相乗効果を発揮して、グループ全体の成長に貢献していきます。

DNPグループの3つの事業部門。DNP科学分析センターの分析・評価解析が特に有効なライフ&ヘルスケア部門やエレクトロニクス部門は、技術の発展にともなって社会的な意義も増大しています。

二井が語るDNP科学分析センターの今後の展望は――。

「最先端のモノづくりは、誰もやったことがないだけに未知の領域が大きく 、おのずと私たちの分析・評価解析技術が求められるシーンは増えていくと思っています。また、社会的な価値の創出に貢献していくという点でも、私たちの責任は大きくなっています。その意味でも、DNP科学分析センターとDNPグループ全体のノウハウを融合し、『オールDNP』で幅広い事業領域に貢献する“提案型”の分析・評価解析企業へと成長させていきます」

DNPグループの多彩な事業領域を広くカバーし、製造プロセス全体を俯瞰する“つくる側の視点”も備えた稀有な分析・評価解析企業として、DNP科学分析センターの存在意義は高まっています。確かな技術を支えとして、DNPグループは快適でワクワクする製品・サービスを生み出し続けていきます。