ひとりの思いが仲間を動かし、新たなビジネスを創出 〜マンガとアニメの未来を切り拓く「ライトアニメ®」 の挑戦

マンガとアニメの未来を支えたい……。そんな思いでスタートさせた 「ライトアニメ®」は、マンガの原稿そのものを素材として高品質なアニメ作品を制作し、企画から国内外での放映、多様な展開までワンストップで手掛けるコンテンツプロデュース事業です。その狙いや可能性について、発案者として社内外に広いネットワークを構築した端山徹也と、同部署の大高愛純、和田正憲、本橋匠の4名に話を聞きました。

目次

左から、大高、本橋、端山、和田

【プロフィール】
大日本印刷 出版イノベーション事業部 コンテンツ・マーケティング企画推進本部
端山 徹也(はやま てつや):ライトアニメ全体の統括
大高 愛純(おおたか あずみ):「AnimationID®」プロジェクトなどを担当
和田 正憲(わだ まさのり):絵本・学習漫画関連を担当
本橋 匠(もとはし たくみ):ライトアニメ活用の企画関連を担当

“思いをカタチにする”社内外のネットワーク

日本独自の魅力を国内外に発信し続ける「マンガ&アニメ」。鳥獣戯画の時代から、マンガ的な表現で培った世界観やストーリー、キャラクター創造のノウハウなどがアニメーション表現の技術などにつながり、世界中で多くのファンを獲得しています。

日本のアニメを巡る近年の課題として、定額視聴サービスの普及によってコンテンツを届ける手段が広がった一方、制作負荷の高さや人材不足などによって「作品の制作が需要に追いついていない」状況があります。このままでは国を挙げてアニメ産業を支援する諸外国・地域に、国内の優秀な人材やノウハウが流出してしまうと懸念する声も少なくありません。また、アニメの原作となることが多いマンガの市場から見れば、優れたクオリティでファンも多いマンガの多くが、「なぜアニメ化されない?」と取り残されているとも言えます。

もともと自らを「“新しもの”好きの営業マンでしかなかった。色々なクライアントとの多様な価値創出が趣味だった」と言う出版イノベーション事業部の端山が、現在のライトアニメにつながる着想を得た背景にも、こうした状況への問題意識がありました。

「優れたマンガ作品は数多くありますが、アニメ化されるのはほんのひと握りです。当時私は声優やアニソン*1に関わるイベントを手掛けていて、アニメの魅力や技術の高さを実感していたこともあり、マンガとアニメ双方の業界がWin・Winとなるような解決策はないかと可能性を探っていました。社内外の多くの関係者にヒアリングするなかで、これなら! と思えたのが、“マンガ原稿を素材に、原作に忠実かつ高品質なアニメ作品をつくる”というアイデアでした」(端山)。

「着想は非常にシンプルで、フルカラーの絵があり、音があり、動くのがアニメだと定義すること。マンガをアニメにするには読むものを観るものに変換する必要があると考えました。制作の負担を“軽く“することと、作品に“光”を当てることの2つのLightの意味を込めて、ライトアニメと名付けました。

まず技術面でクリアしなければならないのが、静止画であるマンガの原稿を動かす手法の確立です。2021年4月、ライトアニメのベースとなるアイデアを社内の新規事業プロジェクトで提案した当時、すでにマンガをコマ単位で切り出して動画にするモーションコミックという形式はありました。しかしこれは、吹き出しの文字を読む行為を求めるスタイルであり、せっかくの動画なのにアニメ表現のダイナミックさを大きく損なうと感じていました。アニメとしてのクオリティを担保するには、なめらかな動きの再現、セリフや効果音の付与といった独自のノウハウが必要だと思ったのです。

さらに、ビジネスとして着地するために欠かせないのが、アニメの原稿となるマンガの供給と完成作品の販売という2つのルートの開拓です。マンガのコンテンツホルダーである出版社との契約はもちろん、配信先としてテレビ局や動画配信サービス等とのルートを確立する必要がありました。

これらに取り組む過程であらためて気付かされたのが、DNPグループの強みです。技術的な部分では、吹き出しの削除、背景の描き足し、キャラクターの切り出し、彩色といった各工程に“職人”がいて、基本的な制作は社内でも担えることを確認しました。また、マンガの供給とアニメの販路開拓では、重要データの管理という面でもDNPが長年にわたって積み上げてきた出版社との信頼関係が役立ちました。マンガなどのコンテンツは出版社にとって大切な資産であり、それを他者に託すことはお金を銀行に預けるようなこと。『DNPなら任せられる』と前向きに検討していただけることが多く、そこを起点に企画を立ち上げ、テレビ局や動画配信プラットフォーム、教育関連企業などの配信先への自主提案を重ねました。そうすることで少しずつネットワークが広がっていきました」(端山)。

一方、テレビアニメと比べても遜色がない高品質な作品をめざす端山には、欠かせない最後のピースがありました。それが、アニメ制作のノウハウと実績がある強力なパートナーの獲得です。

「単に安く早くアニメをつくれるというだけでは絶対に生き残れないと思っていたなか、マンガやテレビアニメ、Webアニメに知見がある株式会社主婦の友インフォス(現・株式会社イマジカインフォス)さんとの協業は強力な追い風となりました。両社でアイデアを出し合いながらコンテンツとしての精度を上げるのと同時に、一緒に約30の出版社を回るなど、市場調査やパートナー獲得にもお付き合いいただきました。開発期間を経て、2024年に同社との協業プロジェクトを『AnimationID®』と名付け、ライトアニメの中でもテレビ放送やネット配信を前提としたハイエンドなコンテンツの企画・制作ならびに放映・配信権の交渉、二次展開などの全体プロデュースをしています」(端山)。

  • *1 アニソン=アニメーションソング:主にアニメ作品で使われる主題歌・挿入歌・イメージソングなどの歌曲・楽曲の総称。

端山 徹也

アニメ制作の新たな道筋を築くライトアニメ

こうして、試行錯誤を経て2022年8月に提供を開始したライトアニメは、アニメ制作の期間とコストを大幅に圧縮しつつ、テレビアニメと比較しても遜色のない、クオリティの高い作品を制作できるサービスとなりました。

一般的なアニメ作品では脚本・構成・作画(色彩設計・キャラクターデザインなど)を実施した後に映像化するのに対し、ライトアニメはマンガそのものをベースにすることで脚本と作画の工程を省力化。通常、1クール・12話前後の作品を制作する場合、2~3年を要していた期間が半年~1年となり、コストも約5分の1に抑えることができます。これらの特徴は、作品のファン獲得の機会を逃さないという点でも大きな強みとなります。

クオリティの面では、マンガをそのまま動画化するため、マンガとアニメのイメージの乖離が少ないというメリットがあります。加えて、イマジカインフォスとの協業による「マンガとアニメの特性を融合する手法」によって、表現力豊かな作画、スムーズで無駄のない動き、個々のシーンに合ったセリフや効果音、それらが有機的に連動する一体感といった要素が担保されています。

テレビやオンライン配信*2を前提とするAnimationIDの第1弾作品として、2024年6月に「まぁるい彼女と残念な彼氏」の放送(CBCテレビ)を開始。以降、2つの作品を放送し、着実に実績を重ねています。AnimationIDのプロデューサーを務める大高は、その過程で忘れられないエピソードがあると言います。

「あるアフレコ*3の現場で、その作品のマンガ家の方と同席することがありました。その際に実際の映像をご覧になって、大変感動されていたことが強く記憶に残っています。私たちはプロジェクトの当初から、原作となったマンガの作者やファンの意志を尊重することを優先テーマの一つとして掲げてきましたので、その思いは間違っていなかったし、これこそがライトアニメの強みだと勇気づけられた瞬間でした。ファンの方々の反応も好意的です。アニメーションとしての精度もどんどん向上させていますので、これからも皆さんの期待に応える作品をつくっていきたいと思います」(大高)。

  • *2 オンライン配信:インターネットを通じて映像や音声をリアルタイムまたは録画形式で視聴者に届ける仕組み
  • *3 アフレコ=アフターレコーディング:映画やアニメなどの撮影・制作後に、声優がセリフや音声を録音すること

これまで国内外で放映されている(一部放送前)ライトアニメ作品とその台本。インドを含む諸外国でも放映中で、放映先となる販路をさらに拡大中。

AnimationIDは、制作スキームの面でも新たな挑戦をしています。

「作品の企画から放送・配信先との交渉、プロモーション、グッズ制作やイベント実施などの二次展開に至るまでの全体プロデュースを私たちDNPとイマジカインフォスさんがワンチームで担っています。その効果として、アニメ制作で一般的な製作委員会方式に比べて意志決定が早く、制作費以外のコストも抑えられています。これはマンガ家や出版社のご協力を得られるからこそ実現できていることであり、あらためてDNPと出版市場の距離の近さを感じています」(大高)。

大高 愛純

ライトアニメならではの特性を活かした絵本での展開

ライトアニメの活用シーンとして、AnimationIDと並行してDNPが取り組んでいたのが、「絵本や教育分野」への展開です。これは、DNPがめざす未来の一つ「学びの未来」にもつながる重要なテーマでもありました。担当する和田は次のように語ります。

「ライトアニメの“原作とするマンガの絵に忠実”という特徴は、原画がとても魅力的な絵本との親和性が高いのではと考えたのが始まりです。出版市場の厳しさが増す中、これまでも書籍の販売促進用に動画をつくることがありましたが、そこに留まることなく、ライトアニメ化することで新たなプロモーション手段を確立するとともに、マネタイズできるコンテンツにまで進化させることをめざしました」(和田)。

その鍵を握るパートナーとして、DNPグループである株式会社図書館流通センター(TRC)のアセットを生かしてクラウド型電子図書館「LibrariE & TRC-DL」で配信するほか、NETFLIX®* 4をはじめとする動画配信プラットフォームでも展開。これまで約20作品を配信しています。また、学習マンガのライトアニメ化にも積極的に取り組み、すでに『週刊マンガ日本史 改訂版』シリーズ(朝日新聞出版)など複数のコンテンツを電子図書館向けに提供しています。

「絵本のライトアニメ化については、実際に手掛けてみてその価値を再認識しました。たとえば、定額制の動画サービスNETFLIXで配信している、安西水丸先生の『りんごりんごりんごりんごりんごりんご』(主婦の友社)を原作としたライトアニメ作品は、長尺(時間が長い)な作品が多いNETFLIXの中では異例の約1分半の超短尺映像ですが、ジャンル内レコメンドのトップバナーになるほどの反響を獲得しました。シンプルに言うと、りんごがどこまでも転がっていくという内容の作品です。予想をはるかに超えた反響に、絵本ではライトアニメ化の効果を想像することがとても難しいと感じるとともに、あらためて“絵本の魅力とアニメーションの魅力を掛け合わせることで生み出せる価値”を実感しました」(和田)。

  • *4 NETFLIX:NETFLIX, INC.の登録商標です。

絵本のライトアニメ化の魅力を伝える、DNPプラザ(東京・市谷)での企画展における展示

また、デジタルの動画と音声でアーカイブ化(保存・活用)できるライトアニメは、多様な人々のアクセシビリティ(利用しやすさ)の向上にも貢献できます。人々の多様性(ダイバーシティ)を尊重し、インクルージョン(包摂)させることで価値を高めていく「D&I」の視点からも、ライトアニメの意義が「絵本や教育分野」で高く評価されています。

和田 正憲

“わかりやすく伝える力”に多様な企業が注目

多方面で新たな可能性を掘り起こしているライトアニメですが、いち早くその価値に気づいた企業などから相談を受けるケースも増えています。ライトアニメを担当する前に企業のプロモーション業務を手掛けていた本橋は、次のように語ります。

「ライトアニメが持つ“わかりやすく伝える力”は、企業が製品やサービスを紹介する手段としてはもちろん、文字情報だけでは伝えにくかった複雑な仕組みの解説や、適切な使用方法の周知といった活用も考えられます。また、ナレーションを現地の言語に吹き替えるだけで手軽にローカライズできるため、海外でのプロモーションやCSR(企業の社会的責任)活動、グローバルな社内外のブランディングなどにも有効です。作品を配信するメディアとしても、企業のWebサイトやSNS、アプリやメタバースへの実装などさまざまな選択肢があり、すでに多くの企業から問い合わせをいただいています」(本橋)。

本橋 匠

“わかりやすく伝える力”については、生活者のある動向に端山も注目しています。

「近年、テレビ離れや倍速視聴*5などのキーワードに象徴されるように、若年層を中心に再生時間の長い映像を敬遠する傾向が生まれています。実際に私も、動画共有サービスでショート動画のほうをクリックしがちです。その意味では、“わかりやすく伝える力”があったとしても、まず『観てみたい』と思ってもらえなければ始まりません。ライトアニメとしてもそうしたニーズに応えていかなければいけないので、通常のテレビアニメよりも短い尺で制作したり、スマホでの閲覧を前提とした縦型のショートアニメを開発したりするなど、いろいろな方向性を模索しています。ライトアニメが新しい“変換手法(静止画から動画への)”であるからこそ、既存の映像フォーマットにとらわれずに、これから求められる新たなフォーマットを常に追求していきます」(端山)。

さまざまな面でそれまでの常識を打ち破り、新たなアニメ制作の道筋や活用シーンを開拓しているライトアニメ。ひとりの社員の思いから始まったアクションの輪は、社内外の多くの賛同者を得て広がり、いま、ビジネスとして大きなうねりを生み出しています。

  • *5 倍速視聴:映像の再生速度を速くしたり遅くしたりして視聴すること

ライトアニメの最前線を体感できる企画展 「ライトアニメ ~創れ! 漫画の新次元~」を開催中

会期:2025年4月25日(金)~7月31日(木) 10:00~20:00 ※休館日:日曜日
会場:DNPプラザ(東京都新宿区市谷田町1-14-1 DNP市谷田町ビル 1階)
※入場無料
主催:大日本印刷株式会社(DNP)
WebサイトURLhttps://dnp-plaza.jp/kikakuten/index.html

日々進化する「ライトアニメ」の多彩なコンテンツが大集合! 「テレビアニメの品質ってどんな感じ?」「マンガや絵本をそのまま活かすってどういうこと?」など、さまざまな疑問への答えをご自身で確かめられる貴重な機会です。皆さまのご来場をお待ちしています。
スクリーンで上映する日替わりのライトアニメ、原作となったマンガとライトアニメを見比べられる展示、マンガ家さんや製作者たちの生の声を伝える展示、キッズ向けや学習コンテンツの映像化事例など、多角的にライトアニメの“いま”に触れて・感じていただけます。原作となったマンガや絵本は、DNPプラザ1階の「外濠書店」で購入可能! お気に入りの作品との出合いにつながるかも。

企画展「ライトアニメ ~創れ! 漫画の新次元~」の展示風景(上、中、下)

企画展「ライトアニメ ~創れ! 漫画の新次元~」の展示風景

企画展「ライトアニメ ~創れ! 漫画の新次元~」の展示風景

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