
独自の「グリーンアセプティック」技術でPETボトル飲料製造時のCO₂排出を4割削減
- X(旧Twitter)にポスト(別ウインドウで開く)
- メール
- URLをコピー
- 印刷
地球温暖化の抑制に向けてカーボンニュートラルが広がる中、飲料業界でもサプライチェーン全体での温室効果ガス(以下CO₂と表記)排出量削減の動きが加速しています。DNPは、現在 国内トップシェア※1を獲得しているPETボトル用無菌充填システムの開発において、いくつもの環境負荷を低減するしくみを採り入れていますが、2024年春、この取り組みをさらに進化させ、水の割合が高い飲料の製造においてCO₂排出量を従来より約40%削減できる独自の「非加熱滅菌システム」の開発に成功しました。「GREEN ASEPTIC®(グリーンアセプティック)」と名付けられたこの滅菌システムの特長とその先の展望についてご紹介します。
目次
- 発想の転換が生んだ“加熱しない”という選択肢
- 「UV殺菌+ろ過滅菌フィルター」の2段階で水を非加熱滅菌
- 飲料製造ライン全体のCO₂排出量を、約40%削減
- 技術革新とグローバル展開の加速で飲料業界のスタンダードへ!
- ※1 日本で製造されるPETボトル飲料の約2分の1に、DNPの無菌充填システムが使われています(2025年4月現在 当社調べ)。
発想の転換が生んだ“加熱しない”という選択肢
DNPグループでPETボトル用無菌充填システムなどの開発・販売・保守サービスを担う株式会社アセプティック・システム(APS)は、これまでPETボトル用無菌充填システムにおいて、業界をリードする革新的なエネルギーの消費量やCO₂排出量の削減方式を開発してきました。PETボトルのベースとなる小さな試験管の形状をしたプリフォームを充填工場に持ち込み現地で膨らませることで輸送効率を上げて環境負荷を低減する、超高温・短時間という必要最小限のエネルギー量で飲料を滅菌する、常温で充填するしくみによりPETボトルを薄肉化してプラスチック使用量を削減するなど、飲料製造プロセスの各工程において高い生産効率と環境性能を実現しています。APSが、グリーンアセプティックの開発をスタートさせたのは2021年のこと。日本政府がカーボンニュートラルをめざすと宣言し、飲料メーカーも環境への配慮を加速させる中、自社の技術を活かしたさらなるカーボンニュートラルへの貢献に取り組み始めたのです。
DNPのPETボトル用無菌充填システム(従来)
|
開発初期から注目したのが、飲料製造プロセスで最もエネルギーの消費量が大きい「液処理工程」でした。
無菌充填システムでは従来、お茶やジュースなどの製品原液を水で希釈して製品液をつくり、その“全量”を超高温(UHT:Ultra High Temperature)で加熱滅菌し、冷却してから充填します。このプロセスは飲料の味、風味、安全性等を保つうえで不可欠である一方、加熱時に全量分のエネルギーを消費し、CO₂を多く排出するという課題がありました。
そこでAPSが着目したのが、清涼飲料の主原料である水です。飲料工場で使用する水はもともと非常に清浄度が高いため、水だけなら加熱以外の方法で滅菌できる可能性が高いはず……。水を非加熱で滅菌すれば、加熱滅菌は製品原液だけの最小限の液量に抑えられて、エネルギーの消費量を大幅に削減できると考えたのです。
「UV殺菌+ろ過滅菌フィルター」の2段階で水を非加熱滅菌
水を非加熱で滅菌するには、紫外線(UV:Ultra Violet)ランプを使用するUV殺菌と、ろ過フィルターを使って滅菌する方法の2つがあります。しかし、UV殺菌は一部の真菌(カビなど)に対する効果が限定的であり、ろ過滅菌フィルターによる方法は真菌や細菌胞子の滅菌効果がある一方、極めて微小な「ろ過性細菌」を完全に除去できないため、それぞれ単独では飲料に求められる十分な滅菌ができないという課題がありました。
こうした課題に対してAPSは、UV殺菌とろ過滅菌フィルターを組み合わせて水を非加熱滅菌する環境配慮技術「グリーンアセプティック」を開発しました。
水を非加熱滅菌する主な手法 |
まず、対象となる水に対してUV殺菌をします。ここでのポイントは、一般的に殺菌灯として普及している「低圧UVランプ」ではなく、より幅の広い波長の紫外線を高出力で照射できる「中圧UVランプ」を使用する点です。中圧UVランプを使用するUV殺菌装置は日本で普及していませんでしたが、装置を一部改造し、システムへの組み込みを実現しました。
この中圧UVランプでの殺菌については、国内外の論文をもとに確認しておくべき細菌について精査し、ろ過性細菌を20株以上収集して検証したところ、すべての菌に対して99.9999%以上の高い殺菌効果があることが確認できました。
中圧UVランプによる殺菌効果を調べる装置 |
次に、中圧UVランプで処理した水をろ過滅菌フィルターに通します。これにより、UV殺菌で生き残った可能性のある微生物やその死骸などを物理的に除去し、無菌水をつくりだすのです。
微生物株の収集・調査、殺菌効果の検証は現在も継続して実施している。 |
この「UV殺菌+ろ過滅菌フィルター」という2段構えの滅菌プロセスは、医薬品の製造で用いられる極めて高い無菌性保証レベルと同等以上の効果があり、飲料の安全性を担保することができます。
最後に、製造した無菌水を別工程で加熱滅菌した製品原液と無菌環境下でブレンドして充填します。このシステムを使用することで、従来の飲料製造と比較してエネルギー消費量が抑えられ、製造ライン全体のCO₂排出量削減を実現します。同時に、年間数千万円規模のランニングコスト削減にもつながる可能性があります。
飲料製造ライン全体のCO₂排出量を、約40%削減
グリーンアセプティックを搭載した充填システムの第1号機は、2024年4月から大手飲料メーカーで本格稼働しています。本システムを導入した飲料メーカーでは、従来の全量加熱滅菌方式と比較して、液処理工程におけるCO₂排出量を約80%削減※2。また、ボトルやキャップ、無菌チャンバーの洗浄用無菌水もすべて従来の加熱滅菌から非加熱滅菌に切り替えています。
飲料滅菌工程でのCO2とエネルギー消費量の削減率 |
容器の滅菌においては、PETボトルの形に膨らませる前のプリフォームを殺菌し、ボトルの形にした後に再度殺菌する「2段殺菌システム」を採用することで、ボトル殺菌に要する薬剤使用量の大幅な削減を実現しています。これらを組み合わせると飲料製造ライン全体のCO₂排出量の約40%の削減に相当します。
DNPのPETボトル無菌充填システム(従来)による清涼飲料製造工程と、新しいPETボトル用無菌充填システムの比較 |
グリーンアセプティックは、高い省エネ性能が実証されたことで、経済産業省・資源エネルギー庁の省エネ補助金の対象である「先進設備・システム」に採択※3。本技術の導入によって、飲料メーカーの設備投資コストの大幅な軽減を実現します。
- ※2 約80%の削減効果は希釈倍率5倍の時。製品原液を水で希釈する倍率により削減効果が変わる。
- ※3 一般社団法人環境共創イニシアチブの令和6年度補正予算「省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業」の先進設備・システムの補助対象設備として、グリーンアセプティックが登録された。
一方で、導入にあたっては、製造プロセスの切り替えによる製品への影響を最小限にするために、飲料メーカーとしての検討も必要です。水と製品原液を分けて滅菌してからブレンドするため、従来の全量加熱滅菌での製造方法と比較し、味・風味・香りなどの検証が重要となります。そのためAPSは各飲料メーカーとの連携を深め、設備導入に関連するサポートも強化しています。
DNPの研究室にあるグリーンアセプティックのテスト機。規定の無菌レベルの保持についてさまざまな検証を行っている。 |
技術革新とグローバル展開の加速で飲料業界のスタンダードへ!
APSは現在、グリーンアセプティックのさらなる省エネ効果と安全性の向上をめざすとともに、より幅広い飲料に対応できるよう、さらなる技術の改良・革新を進めています。
たとえば、お茶、スポーツドリンク、炭酸飲料などの殺菌レベルが異なる飲料の種類・特性に合わせて、UVの照射量や、ろ過滅菌フィルターの種類を最適化することで、一層のコスト低減などにつなげていきます。
DNPグループは今後も継続して、国内トップシェアを獲得してきたPETボトル用無菌充填システムの強みを生かし、グリーンアセプティックを“飲料業界のスタンダード”となる技術に育てていきます。その達成に向けて、2030年までに国内飲料メーカーの複数ラインでの導入をめざし、稼働実績を積み重ねていきます。
また、グローバルで事業を展開する飲料メーカーとの連携も深め、海外展開も加速させていきます。特にアジア圏は、無菌充填システムの特長を生かせる茶系飲料の市場が急速に伸びているため、将来的にも有望な市場として開拓を進めています。
中長期的には、グリーンアセプティックの応用範囲をPETボトルの清涼飲料だけに留めることなく、紙容器や缶などに充填する飲料の製造にも広げる計画です。そのため、DNPが持つ多様なパッケージの技術と掛け合わせて、さらなる研究を進めています。
DNPグループは、環境負荷低減と経済合理性を両立するグリーンアセプティックを搭載した無菌充填システムが飲料業界全体の標準的なシステムとなるよう、その浸透に努めていきます。工場のカーボンニュートラルの実現をめざす飲料メーカーの良きパートナーとして、未来の脱炭素社会の“あたりまえ”をつくり続けていきます。
環境負荷低減と経済合理性を両立させるシステムの普及によって、飲料メーカーの製品開発の選択肢が広がり、生活者はこれまで以上に多彩な飲料を楽しむことができるようになるでしょう。 |
- ※記載された情報は公開日現在のものです。あらかじめご了承ください。
- X(旧Twitter)にポスト(別ウインドウで開く)
- Linkdin
- メール
- URLをコピー
- 印刷