リアルな木目調が街との調和を促す
隈研吾建築都市設計事務所による複合施設設計-施工事例

2023年10月、代官山の新たなランドマークとして誕生した複合施設 「 Forestgate Daikanyama(以下、フォレストゲート代官山)」。周囲の街並みに溶け込む建築をめざすなかで、外観のキーマテリアルとして採用されたのが、「DNP内・外装焼付印刷アルミパネル アートテック®」でした。

都市の中心に建つ大規模建築でありながら、なぜリアルな木の質感にこだわったのか。そして、数ある建材のなかからアートテックを選んだ理由とは何か。設計を担当したSHUKU DESIGN OFFICE主宰・珠玖優(しゅく・まさる)氏(※設計当時は、隈研吾建築都市設計事務所に在籍)にお話を伺いました。

本記事は、壁材・床材など住空間向け製品を扱っているDNP生活空間事業部が編集しています。以下のバナーよりDNP製品・採用事例等をご覧いただけます。

SHUKU DESIGN OFFICE主宰・珠玖優氏

プロジェクトの概要―代官山の文脈に呼応する建築を

まず、「フォレストゲート代官山」の概要と、珠玖さんのご担当についてお聞かせください。

珠玖優(敬称略。以下、珠玖):「フォレストゲート代官山」は、シェアオフィス、賃貸住宅、商業施設という3つの用途が同居した複合施設です。

事業主である東急不動産様は、渋谷駅を中心とした半径2.5km圏内を「広域渋谷圏」と定めています。「フォレストゲート代官山」は、そこで提唱する「職・住・遊 近接の新しいライフスタイル」の具現化をめざしたプロジェクトでもありました。

敷地内には、MAIN棟(地上10階、地下2階建て)と、TENOHA棟(地上2階建て)が建ち並びます。この2つの棟のうち、MAIN棟の基本設計および実施設計のデザイン監修を担当したのが、隈研吾建築都市設計事務所(以下、隈事務所)です。当時、隈事務所に所属していた私は、プロジェクトマネージャーとして設計チームを取りまとめていました。

依頼を受けた段階では、「職・住・遊」のおおよその面積配分が示されており、ボリューム検討からスタディを始めました。そこで、まず行ったのが、代官山という土地の文脈を丁寧に読み解くことでした。

代官山には、小規模な店舗や住宅が緑と共存する、人のスケールに寄り添った街並みが残っています。例えば、「ヒルサイドテラス」や「代官山T-SITE」といった代官山を象徴する建築も、そうした文脈のなかで成り立っています。今回の敷地にかつて建てられていた「TENOHA代官山」も、中庭を中心とした開放的な構成が、街の記憶の一部として機能しているようでした。そのため、代官山を訪れる人にとっての新たなランドマークであると同時に、地域の方々にも親しまれる建築を模索するうちに、この街の風景や記憶をどう継承するかが設計の大きな軸となりました。

その一方で、近年、代官山駅前には大型の建築物の新築が相次いでおり、街並みとのスケール感にギャップが生じていました。そこで私たちは、「木箱」と「孔(あな)」という2つのキーワードを手がかりに、建物と街の関係を再構築しようと考えました。

「フォレストゲート代官山」は、建物のボリュームを木箱状に細かく分節し、それらを積層させることでスケールダウンを図っています。また、その木箱に孔を開け、光と風、人の通り道をつくることで、駅と街との回遊性を生み出すとともに、街に開かれた構造を実現しています。さらに、その孔にオフィスや住宅、商業機能が交差することで、多様性を内包した都市の断面を表現しました。

なお、各木箱には、それぞれ施設側が管理する植栽を設けています。緑が共存する街並みが垂直方向へと立ち上がっていくイメージです。

フォレストゲート代官山の外観

アートテックで実現した“リアルな木”の表現

その「木箱」に用いられているのが、アートテックですね。採用の背景を教えてください。

珠玖:「木箱」と呼ぶからには、リアルな木の質感が不可欠でした。しかし、このスケールの建築で自然木を使用すると、防火性能や耐候性、メンテナンスの観点から多くの課題が伴います。木の経年変化は魅力でもありますが、意図しない反りや退色、節の脱落といった、自然素材であるが故のリスクは常に付きまといます。

木目調シートや塗装といった代替案も検討したうえで、意匠性と性能を高いレベルで兼ね備えたアートテックの採用に至りました。私自身、過去に使った経験があったため、信頼感もありました。

アートテックは、具体的にどのように使用されていますか?

珠玖:木箱を構成するフレーム部分に用いています。端部はアートテックを90度に曲げ加工し、積層される木箱の連続性とシルエットの美しさを際立たせています。リアリティを追求するために、板幅は天然木を使用する場合のスケール感を参考にして、あえてランダムに配置しました。これにより、自然な表情を演出しています。

木目には、遠景からでも印象的に映るよう、やや大柄でアップルの木目を表現した「ロアールアップル柄」を採用しました。アートテックは木目調だけでもバリエーションが豊富で、設計者として表現の自由度が高い点も魅力です。

また、この外装フレームは、複数用途を持つ建築の調和を図る役割も担っています。住宅部分では、排水管や界壁(かいへき)といった生活感の出る要素を隠し、オフィスや商業部のファサードとの統一感を持たせました。また、下層に向かって木箱のサイズを大きくすることで用途ごとのスケール差も自然に接続しています。

「木箱」を表現するためにアートテックを採用

現場で得た学びと改善のヒント

施工段階で気づいた点などはありましたか?

珠玖:曲げ加工の際に、曲げ加工部が光の当たり方によって反射して見えるケースがありました。アートテックの一般的な利用法であれば気にならなかったと思いますが、シルエットの美しさを求めて直角に折り曲げたゆえでしょう。そのため、重厚感を出すために当初検討していた濃い色調からやや明るめの色調に変更しました。DNPの担当者にはサンプルを多数ご用意いただき、幾度もやり取りを重ねながら、理想的な質感と色味を見つけていきました。

コスト面ではどのように評価されていますか?

珠玖:昨今の資材価格高騰の影響もあり、アートテックの採用には一定のコストがかかります。しかし、本物の木材に必要な不燃処理や防腐処理、そして完成後の維持管理にかかるランニングコストを考慮すると、十分に合理的な選択肢だったと思います。特に、今回のような大規模建築においては、トータルコストで判断すべき建材だと感じます。

周囲の評価

クライアントや利用者からの反応はいかがですか?

珠玖:「木の温もりが感じられて良い」「代官山の街並みによくなじんでいる」といった声を多くいただいています。植栽の緑とアートテックの木目調が呼応しながら、建物全体が街にやわらかく溶け込むような風景が生まれたのは、まさに設計当初からの狙い通りです。なかには、本物の木を使っていると勘違いされる方もいらっしゃるほどで、アートテックの表現力の高さを改めて感じています。

「フォレストゲート代官山」を見て、同様の雰囲気の建物を実現したいという新たな設計依頼をいただくこともあり、アートテックの魅力が広がりつつあることを実感しています。

また、東急不動産様は環境意識の高い企業で、内装材には間伐材を活用するといったサステナビリティに積極的に取り組んでいます。アートテックの基材がアルミで、リサイクル性が高い点も評価されていました。

改修案件における可能性と、今後の期待

今後、アートテックに期待することはありますか?

珠玖:特に改修案件において、アートテックのように薄くて軽量、かつ高意匠な素材の価値はますます高まっていくと感じています。

例えば、私が隈事務所在籍時に担当した「玉川高島屋 リニューアル 」では、既存の外装が二重ガラスになっています。そのわずか6cm程度の隙間に木目調のアートテックを挿入することで、外観を刷新しました。また、「AD-O Shibuya Dogenzaka 」というオフィスビルでは、ファサードを操作できる奥行きが20cm程度しかないという厳しい条件下で、アートテックを曲げ加工して縦横に跳ね上げるようなデザインを施し、立体的な表情を実現しました。

改修ではどうしても物理的な制限が多くなります。既存の建物のボリュームが決まっているなか、手を加えられる奥行きが極端に狭いといったケースも珍しくありません。そうした厳しい制限下でも、豊かな空間表現を可能にするという点が、アートテックの大きな強みのひとつだと思います。

独立から約1年が経ち(※インタビュー当時)、私自身も新たな挑戦の最中にいます。アートテックには、そうした設計者の創意工夫を支える優れた選択肢であり続けてほしいと期待しています。

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■設計者
珠玖優(しゅく まさる)
1984年 東京都生まれ。
2009年 慶應義塾大学 大学院 理工学研究科 隈研吾研究室 修了。
2009年 隈研吾建築都市設計事務所 入社。
設計主任、室長を歴任し、浅草文化観光センター、玉川高島屋本館外壁改修、守山市立図書館、フォレストゲート代官山など20以上のプロジェクトを担当。
2024年 隈研吾建築都市設計事務所を退所し、SHUKU DESIGN OFFICEを設立。
ホテルやオフィス、サウナ、ファサードデザインなど、さまざまな用途のデザインを進行中。

■事例DATA
Forestgate Daikanyama
所在地:東京都渋谷区代官山町20番23号
用途:賃貸住宅、商業店舗、事務所(シェアオフィスを含む)、駐車場
施主:東急不動産株式会社都市事業ユニット渋谷開発本部
竣工年:2023年
基本設計・デザイン監修:株式会社隈研吾建築都市設計事務所
実施設計:竹中工務店・東急設計コンサルタント共同企業体
施工:株式会社竹中工務店
建物構造:鉄筋コンクリート造 一部鉄骨造
規模:地下2階 地上10階
敷地面積:約4,084㎡
延床面積:約21,096㎡
施工期間:2021年3月-2023年8月

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  • *2025年5月28日 SHUKU DESIGN OFFICEにて
    *アートテックは、DNP大日本印刷の登録商標です。

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