【対談】三越伊勢丹×DNP:
マーケティングの本質は「己を知る」こと。
プロの視点から探る、AIとの対話がもたらす価値 

生活者の本音を、文脈からとらえ、そして購買の裏側にある期待、迷い、躊躇、決断のトリガーを言語化できたらマーケティングはどのように変化していくのか、という問いを起点に今回、株式会社三越伊勢丹 伊勢丹立川店 店長の北川竜也氏と、DNPの林友件が対談を行いまし
本対談では、百貨店が守り続ける「顧客づくりの本質」を紐解きながら、AI(ペルソナインサイト)を単なる効率化ツールではなく、マーケターが「己を知り、価値を創る」ための研磨剤として活用する、次世代のマーケティング像に迫ります。

※2026年3月公開時点の情報です

三越伊勢丹とDNPがAI活用による顧客理解とマーケティングの本質を語る対談

(左)株式会社三越伊勢丹 伊勢丹立川店 店長 北川 竜也氏  (右)DNP 林 友件

プロフィール

株式会社三越伊勢丹(株式会社三越伊勢丹ホールディングスサイトへ)
1673年創業の「越後屋」から発展した三越と、1886年創業の「伊勢屋丹治呉服店」から発展した伊勢丹が経営統合し、2011年に誕生。三越と伊勢丹の他に、丸井今井と岩田屋という計4つの「のれん」をもち、国内20店舗、海外23店舗を展開する(2025年11月調査時)。実店舗での販売に加え、オンラインストアにも力を入れている。

株式会社三越伊勢丹 北川 竜也氏
大学卒業後、国連の活動を支援するNGOで国際法廷設立等のプロジェクトに従事。日本帰国後、株式会社スコラ・コンサルトにて企業風土改革に携わった後、クオンタムリープ株式会社にて新事業創出支援やベンチャー企業支援等を担当。その後、アレックス株式会社の創業に参画し、越境EC事業の立ち上げ・運営を行う。2013年に株式会社三越伊勢丹に入社後は、デジタル戦略、EC戦略・運営、デジタルインフラ整備・運営、新規事業領域を幅広く担当。現在は伊勢丹立川店の店長を務める。

目次

百貨店の事例から見えるマーケティング

コトから導かれるモノの価値の提供

林(DNP)
北川さんは他業界での経験やDX推進の責任者を経て、現在は実店舗の店長という立場にいます。そんな北川さんからすると、「マーケティング」とはどのようなものでしょうか。

北川氏(三越伊勢丹)
一般的にマーケティングというと、ファネル型を想像される方が多いかもしれません。ファネルとはマーケティング用語で「漏斗(じょうご)」を意味します。

例えば1万人にDMなどで宣伝して千人が開封して、百人が興味をもって、そのうちの数%〜数十%が購入するといった流れのマーケティングのことです。最終的に購入に至った人数を、DMなどを送付した人数で割った値のことをコンバージョン率、あるいは成約率といいます。ファネル型で見れば、この比率が高いほど効率的なマーケティングができているとされています。

林(DNP)
百貨店ではどのくらいのコンバージョン率をめざしているのですか?

北川氏(三越伊勢丹)
顧客の趣味嗜好やニーズをしっかりと汲み取れる店頭接客、そして外商という仕組みを持つ百貨店が究極的にめざしているのが、コンバージョン率100%です。顧客のニーズに確実に商品やサービスを当てていけること、そしてその数を予測できること。これが百貨店の大きな強みになると考えています。

外商とは、顧客一人ひとりと継続的に繋がり、さまざまなニーズに個別対応する百貨店独自のサービス形態です。

林(DNP)
確かに百貨店は外商の仕組みがあるので、お得意様の顧客と直接コンタクトが取れますね。

北川氏(三越伊勢丹)
外商担当は日々のコミュニケーションを通じてお客様との信頼関係を構築し、ニーズを把握しています。例えば「サロン・デュ・ショコラ/ショコラモード」というチョコレートの超人気催事があります。チョコレートが好きで仕方がないお客様には、特別な体験や優先的に購入できる仕組みを提供します。このように買い物をより豊かに、かつ効果的に行っていただける環境を整えることで、購入いただける確率は100%に近づいていきます。

林(DNP)
コンバージョン率100%の理由はそれだけでしょうか。例えば、商品に対する顧客のマインドなど、一般消費者を対象としたマスマーケティングと違いはありますか。

北川氏(三越伊勢丹)
おっしゃる通り、サロン・デュ・ショコラにはチョコレートに並々ならぬ情熱をお持ちのお客様もいらっしゃれば、普通のチョコレート好きの方、この時期だからこそ、あるいはこの時しか買わないという方など、さまざまなニーズのお客様がいらっしゃいます。一概には言えませんが、普段は出会えないチョコレートに出会えるという特別感が、商品面でもサービス面でも演出されている点が、マスマーケティングとの違いかもしれません。

ある特定のブランドの全種類をお買い求めになるような方もいらっしゃれば、パティシエに会うことを楽しみにご来場くださる方もいらっしゃいます。

林(DNP)
顧客の多様な心理を突いた催事となっているわけですね。もう少し、この事例で話を深掘りしていきたいと思いますが、「顧客の本質的なニーズ」は何だととらえていますか?

北川氏(三越伊勢丹)
本質的に顧客が求めているのは、チョコレートを媒介とした体験と言い換えることもできると思います。

顧客の期待を超える満足を提供できれば、そこで使ったお金を惜しいとは感じなくなっていただけます。ときにそれは、興味のない人からすると良さがわからないこともあるでしょう。特定の商品に偏った愛着(いわゆる、偏愛)を持つ顧客の心をくすぐるような、満足度の高い体験をご用意する。これこそが百貨店の戦略だと考えます。

林(DNP)
この考え方は一般消費財における顧客満足度向上にも応用できそうですね。

北川氏(三越伊勢丹)
例えば新作チョコレートの品評会の場に顧客をお呼びするのも良いかもしれません。顧客からすると「新商品の開発に参画できた」と満足できます。

株式会社三越伊勢丹 伊勢丹立川店 店長 北川竜也氏

マーケティングの本質と顧客づくり

己を知り、先に顧客を作ること

林(DNP)
お話を伺うと、百貨店のマーケティングとマスマーケティングは、顧客のとらえ方や関係性においては少し異なるものだと思いました。

北川氏(三越伊勢丹)
確かにこれまで私が話した内容だけだと、そう思うかもしれません。しかし、外商という仕組みや対象顧客が違うだけで、マーケティングのスタートと本質はどちらも同じだと思います。

まず、マーケティングのスタートは「己を知ること」です。自分には何ができるのか?それによって誰の、どのような課題を解決できるのか?ということを問う必要があります。この問いが意外に難しく、マーケターを生業にしている人でも真正面から質問されると言葉に詰まることも少なくありません。

林(DNP)
マーケターの役割と自社の強みをもとに提供する価値を見極めるということですか。

北川氏(三越伊勢丹)
そうです。これは私の実体験ですが、まさに「己を知る」きっかけとなりました。

かつて私がオンラインの責任者をしていた頃、百貨店のオンラインサイトにはあらゆる商品が掲載されている状況でした。しかし、細かく分析してみると、オンライン上で購入されている商品、人気がある商品には大きな偏りがあることがわかったのです。

通常のオンラインサイトにおける勝ちパターンであっても、「百貨店」という枕詞が付くと話は変わってきます。百貨店に対して顧客が期待する本質的な価値が体現されていなければ、まったく勝ちパターンにはならない。そのことに気づかされました。

林(DNP)
一方で売れている商品もあったということですね。

北川氏(三越伊勢丹)
売れていたのはお洒落なお土産や、先ほどのチョコレートのようなすでにコアなファンがついている限定商品でした。実店舗でもオンラインでも、顧客から求められていることは変わらないとわかったのです。

それに気づいてからは、私たちの役割と強みを意識することで、顧客に提供すべき価値がわかるようになりました。

林(DNP)
なるほど。自分たちの役割と強みに合った商品を提供することが大切なのですね。では、役割と強みを活かした「良い商品」を作ればおのずと顧客は買ってくれるのでしょうか。

北川氏(三越伊勢丹)
決してそういう訳ではないと思います。むしろ私の考え方は「先に顧客を作る」ことです。私の経験をもとにした事例を一つ紹介します。

ある木工会社から集客の施策を打ちたいと相談を受けました。そこで私が提案したのが木工工場の見学ツアーです。実はその会社は一般の方には工場を公開していませんでした。しかも、その会社の製品は世界的な有名企業への導入実績もあったのです。

実際、グループ内の旅行会社に提案してツアーを企画したところ、すぐに予約が埋まりました。しかも、ツアー終了後には「もっと見学時間を長くしてほしかった」と“逆クレーム”がつき、購入意欲を確認するアンケートでは全員が「購入意欲あり」と回答したのです。

このように、先に顧客のニーズを把握し、それに沿ったコンテンツを提供できれば、最終的に商品を購入いただける確率は飛躍的に高くなります。
はじめの顧客を満足させることができれば、顧客は増えていくものです。そのためには顧客が驚き、面白みを感じ、そして満足できる体験、つまり、「お金を使って良かった」と心から思っていただける体験が必要なのです。それを提供するのが、マーケティングの本質だと考えます。

三越伊勢丹の北川竜也氏とDNPの林友件による対談の様子

ペルソナインサイトを開発した背景

消費者が秘めている言語化できない本音と客観的事実

林(DNP)
昨今、価値観が多様化することでマーケティングの難易度はよりいっそう高くなっています。百貨店のように外商という仕組みがあれば顧客のニーズを直接的にとらえられますが、マスマーケティングではそうはいきません。

そこで私たちは「ペルソナインサイト」というサービスを立ち上げました。これは総務省の統計データと独自データをもとに100人の仮想生活者(ペルソナ)をAIによって日本の縮図として再現したものです。会社員や主婦、学生などさまざまな立場のペルソナがいます。汎用AIのように対話形式で、開発中の商品などについて、いつでもどこでも何回でも忌憚ない意見をもらうことができます。

北川さんにはこのコンセプトやサービス、どのように映られますか?

北川氏(三越伊勢丹)
ペルソナインサイトの優れた点は、良い意味で血が通っていない仮想生活者のため、バイアスがかかっていないところだと思います。人とは異なりデータに基づいた客観的な回答が得られます。

例えば「近年、若者の自動車離れが進み……」と聞いて違和感のない人は多いかもしれません。しかし、実際のデータを確認すると、全体の自動車保有台数は横ばいから微増の傾向にあり、若者の自動車普及率は大きなダウントレンドにはなっていません。都心では多少自動車離れが進んでいるかもしれませんが、地方では車が生活の足になっているのでそれほど進んでいません。

林(DNP)
ペルソナインサイトは、人の思い込み(バイアス)に振り回されることなく、客観的かつ仮想生活者の人格に沿ったふるまいをします。それによってマーケターがハッと気づかされることや、今まで思いもよらなかった方向からの視点を持てることもあります。

北川氏(三越伊勢丹)
従来のマスマーケティングでは、顧客へのインタビューをすることもあるでしょう。しかし、顧客が自分のニーズを言語化できるとは限りません。ペルソナインサイトはそんな「言語化できない顧客の本音」を知ることのできるツールだと思います。

同時にマーケターが、自分のスキル向上のためにも使えないでしょうか。

林(DNP)
マーケター自身のスキル向上ですか。その視点は面白いですね。

北川氏(三越伊勢丹)
先ほどお話した通り、マーケティングのスタートは己を知ることです。そして、誰にどのような価値提供をできるかが本質です。しかし、この問いに的確に回答できないマーケターは少なくないかもしれません。

私もかつてはさまざまな方と対話し、恥ずかしい思いをしながら学んできました。しかし、ペルソナインサイトを使用することで非属人的に対話ができるため、恥ずかしい思いをせずにマーケターとしてのスキルアップが狙えると思います。

林(DNP)
己を知るために活用する観点は面白いですね。お客様と話をする中で、「営業のロールプレイングに使ってみたい」というご要望をいただきます。

北川氏(三越伊勢丹)
ロールプレイングは有効な手段ですが相手役が人である以上、なんらかのバイアスはかかります。ペルソナインサイトをロールプレイングの相手にして客観的かつ冷静な回答をもらうことで、比較的経験の浅いマーケターのレベル底上げにつながると思います。

ペルソナインサイトのポテンシャル

顧客を生み出す入口としてのツール

林(DNP)
北川さんとお話していると、あらためてペルソナインサイトはサービスのコアコンセプトでもある壁打ち相手として使うのが有効だと思いました。

北川氏(三越伊勢丹)
ペルソナインサイトは非常に有効なツールだと思いますが、使う人には特定のマインドセットが必要かもしれません。

林(DNP)
どのようなマインドセットですか?

北川氏(三越伊勢丹)
私を含めて日本の義務教育を受けて育った人は、学生時代に正解を見つけて満点を得ることを繰り返してきました。しかし、いざ社会に出ると正解は見つけるのではなく作るものだと気づきます。また、何をもって満点なのかもわかりません。

このような環境でも顧客に高い満足度を与えられるのは、自分が信じた答えを実現しようとする人です。しかし、実現のためには己を知り、提供できる価値を知ることが大切です。ペルソナインサイトは、自らの答えの精度向上のために役立つでしょう。

林(DNP)
なるほど。
ペルソナインサイトのなかに答えを見出すのではなく、答えの精度を高めるために使うのが有効ということですね。

北川氏(三越伊勢丹)
そうです。
本質を追求する人は「これが本当に正しいのか?」という不安を常に抱えています。だからこそ、答えの精度を高めるために切磋琢磨を繰り返します。ペルソナインサイトを使うときも、一度回答を得たら終わりではなく、マーケター自身が腹落ちするまで何度でも対話を繰り返すのが良いでしょう。

林(DNP)
問いを繰り返すことで何らかのヒントを得たり、思考の盲点に気づいてもらえれば、開発した私たちにとってうれしいことです。回答は客観的ではありますが、ペルソナには個々の人格や口調などもセットしてますので、実際の人間と対話している感覚になるように開発しています。

北川氏(三越伊勢丹)
顧客満足度の高い価値を生み出しているマーケターに共通して言えるのは、圧倒的な努力を重ね、とんでもない場数をこなしていることです。

例えば、「プロボクサーの高速パンチをかわせるのは、幾度となくパンチを喰らった経験のある選手だけだ」という概念があります。業界は違いますが、マーケターにも同じことが言えると思います。

林(DNP)
ペルソナインサイトは顧客を生み出すための入口となるツールです。ペルソナインサイトでレベルの底上げを行ったあとは幾度となくパンチを喰らい、顧客と向き合っていく必要があるということですね。

北川氏(三越伊勢丹)
ペルソナインサイトの価値は、まさにそこにありますね。
そして、ペルソナインサイトを使いこなしたマーケターが、多くの人を喜ばせる商品を生み出していくのだと思います。

林(DNP)
ペルソナインサイトがどのように世の中の役に立つのか、我が子のように楽しみです。

プロフィール・お問合わせ

大日本印刷株式会社 林 友件
ペルソナインサイト・ヒューマンリサーチなど、ヒト中心のマーケティングリサーチサービスの責任者。ヒトの持つ認知・行動特性をふまえた購買・使用行動評価の領域で、数多くの国内メーカーに対するマーケティング支援に従事。

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DNP生成AIマーケティングサービス「ペルソナインサイト」のご紹介

ペルソナインサイトのダッシュボード画面(ペルソナ一覧)

生活者が上手く言葉にできない本音を、統計情報と生成AIで言語化する

「ペルソナインサイト」は、生活者の隠れたニーズや深層心理をとらえるための新しいマーケティングリサーチプラットフォームです。統計データやDNP独自データなどを学習したAIが、生活者の思考パターンや価値観、行動を忠実に再現した仮想生活者(ペルソナ)を生成。チャット形式によるペルソナとの対話から本音やインサイトに触れ、マーケティング業務の効率性と質の向上に貢献します。

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